ボルダリングと立甲のメリット

最近、クライミングジムに行くとよく聞かれるのが「立甲」
テレビなんかで楢崎選手が立甲をやっていることがブームの発端のようですね。サッカーの長友が体幹トレーニングをやってます、みたいな感じでしょうか。

「楢崎智亜がやっているなら、僕もやろう!」
「楢崎智亜がやっているなら効果があるんだ!」
「クライマーは立甲ができる方がいいんだ!」

と、思っているあなたは、この記事に一度目を通すことをオススメします。この記事で伝えたいことは、要するに「立甲の意味と意義」です。まずは、そもそも立甲ってなんやねん。そんなお話から。

立甲ってなんですか?

「立甲ってあれやろ?肩甲骨出すやつ!」
立甲って何かと尋ねると、まずこんな答えが返ってきます。

この立甲という言葉を提唱しておられたのは高岡英夫先生。古武術や動物研究から「運動科学」を創始された方です。古武術に興味のある方なら、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
僕たち人間の体には脊柱が存在します。脊柱動物としての進化は、魚類から始まり爬虫類、哺乳類を経て人間へとつながります。だから僕たちの動作のお師匠様は、野生で活躍している哺乳類なわけです。
例えば代表的なところで言えばチーター。

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、、、と思って投稿をしていたのですが、僕の大好きな名古屋の藤田先生に「チーターって鎖骨ないし比較対象になりづらくないですか?」というご指摘をいただいたので、急遽変更してオランウータンで例えてみましょう。ちなみに進化の過程で陸上でスピードを出すことを選択した哺乳類(チーターや馬など)は鎖骨がなくなって行き、猿やオランウータンなど、登ることも選択した動物には鎖骨が残っています。

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歩いている時も、肩甲骨が立っているのが写真からもうかがえます。これは単に肩甲骨を浮き出ているわけではなく、文字どおり、【肩甲骨を立てて】歩いているのです。これが立甲。
ではなぜ立甲がクライミングに適しているのでしょう。

立甲がもたらすクライミングでの2つのメリット

 

1.肩が故障しにくくなる。

上半身で一番広い可動域(関節の動く範囲)を持つのは肩関節だということはご存知だと思います。この肩関節は「ローテーターカフ」と呼ばれる関節の安定化筋によって保護されています。が、この肩関節だけが過度に使われてしまうと、ケガや故障の原因になるのです。特に多いのが【肩板損傷】。クライマーなら一度くらいは耳にしたことがある、メジャーな故障例です。

しかし「立甲ができる=肩甲骨の自由度が高い」ので、肩関節にかかる負担を肩甲骨側に逃がすことができます。要は1人でしていた仕事を2人に割り振れるようになるわけです。

2.パフォーマンスが上がる

2つ目はパフォーマンス。肩甲骨と腕の骨の位置関係をイメージしてみましょう。肩甲骨の自由度が低い場合、2つの骨の位置関係はムーブによって鋭角に近づきます。この場合、体幹からの力が肩関節で殺されてしまい、ムーブのダイナミックさが欠けてしまいます。
逆に立甲ができるようになると、肩甲骨と腕の骨の位置関係は鈍角になっていきます。そうすると体幹からの力を肩で干渉することなく、腕に力を伝えられるようになるのです。

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オランウータンの動作を見てみましょう。この画像からもわかりますが、肩甲骨と腕の位置関係は限りなく真っ直ぐに近いことがイメージできます。これが肩甲骨と腕の骨の位置関係が直角であればどうでしょう。あまり速く走れそうにないですよね。

要は、肩甲骨と腕の骨の位置関係が真っ直ぐに近い方が、有利だということです。
ただし、立甲が有利に働くには、前提条件をクリアすることが必要です。
それは、、、

獲得するのは背骨の柔軟性が先

楢崎選手は元々は器械体操を習っていました。だから一般の選手より背骨がよく動きます。この映像を御覧ください。トレーニング中の楢崎選手です。→動画が削除されていました。新しく動画を差し替えましたが、トレーニングではなくただの立甲です。(2分45秒より)

内容は肩甲骨にフォーカスされていて非常にわかりづらいですが、しっかりと背骨が動いています。

2017.2.18追記:あまりにもわかりづらいので実際に登っている楢崎選手の背中の動きをご覧ください。(3分38秒より)

登っている時に、背骨が横方向にしっかりと「しなっている」のがお分かり頂けると思います。

結局のところ、背骨がムチのように波打つことで、体幹の力が腕までしっかりと行き渡り、ダイナミックな動きが生み出されるようになるわけです。

楢崎智亜はある程度、体が出来上がった選手です。だからいろんなトレーニングを積んで今のダイナミックなムーブがあることを、僕たちギャラリーは時として忘れてしまいますよね。だから別の映像を用意してみました。

この動画は先日、和歌山県で行われた「ボルダリング梅の里カップ」での様子。現在、ユースCで活躍している抜井君が登っている映像です。彼は立甲ができるので、参考にしてみましょう。画面右側には、他の選手が登っているのが伺えます。
比較してみると、2人のムーブのしなやかさに違いがあるのがお分かりでしょう。右側の選手は全身の動きがバラバラで、動きに固さが見られます。対して左側の抜井君は、全体の動きが繋がっているようなしなやかさがお分かりいただけるでしょうか?

じゃあ背骨のトレーニングって何すればいいの?

では、背骨の柔軟性を出すにはどうすればいいのでしょう。代表的な背骨のトレーニングと言えば「キャットバック」が有効です。
キャットバックとは、読んで字のごとく猫の背中。四つん這いになり、背中を丸めたり反らしたりという動作トレーニングです。特に意識して欲しいのは「胸椎」。まずはこのトレーニングを行い、背中の柔軟性をつけていきましょう。

今日のまとめ

立甲は素晴らしいトレーニングです。しかし、大元の体幹がうまく機能していないと、あなたが思ったような効果は得られないでしょう。要は全身の動きをつなげて、しなやかでダイナミックなムーブを獲得するための一つの手段にすぎないということを覚えておくと良いでしょう。

ボルダリングをもっと長く、強く、楽しめる体へ。

杉山典之でした!

ABOUTこの記事をかいた人

●柔道整復師、姿勢改善すこやか整骨院 院長●クリニックや整骨院勤務を経て、延べ1万人以上のアスリート、7万人以上の施術実績を持つ。 2014年4月に奈良県香芝市で開業(現在は御所市に移転)。『レントゲンでは異常なし』と言われるような症状を得意とし、皮ふの調整から体のバランスを整えるプロとして活動している。